黒のものを白にできるか(2)
というエントリを書きましたが、その続きです。
実際に弁護士のところに来る依頼としては、北村弁護士の言うような『本当はこう(黒)だけど、こう(白)してくれ』というものよりも、依頼者自身は「白」と言っていても、どうみても「黒」ではないかと思える場合に弁護士はどうするのか。
どうみても「黒」と思える場合にも、いくつかパターンがあります。
その1 依頼者の主張する事実関係を前提にしても、依頼者の主張する法的な効果は理論的に発生しない場合。
我々の世界で言う「主張自体失当」という場合です。
例えば、既に普通に自主退職を認めて退職金も渡してしまったかつての従業員について、最近在職中に非行があったことが判明したので、遡って退職金を返させたいとかいうご主張のような場合がこれに当てはまります。
このような場合は、どうやっても依頼者の要望は実現できませんので、お断りするしかありません。
その2 依頼者の主張する事実関係を前提にした場合、依頼者の主張する法的な効果は発生するが、依頼者の主張する事実関係が不合理で、事実とは思えない場合。
例えば、交通事故に遭われた被害者の方が、その事故によって商談の機会を逃し、1億円の利益をふいにしたとして損害賠償の請求を主張されているような場合。
絶対ないとは申しませんが、いわゆる「当り屋」がよく使うような手口の話にも出てくるプロットであり、常識的に言ってけっこうぶっ飛んだ話に聞こえます。
このような場合は、本当に依頼者の主張されている事実関係が真実であると確認できるのか、詳細にお話を伺って、慎重に判断することになります。
詳細なお話を伺った結果、第一印象では「は?」と思えるような内容でも、意外と納得できそうな内容であることが判明してくる場合もあれば、詳細にお聞きしても一向にリアリティが感じられない場合もあります。後者の場合にはやんわりとお断りすることになります。
その3 依頼者の主張する事実関係を前提にすれば、依頼者の主張する法的な効果は発生するが、依頼者の主張する事実関係を立証するための証拠がほとんどない場合。
これが本当に困る場合ですね。
立証ができそうもない、というのが最も判断に迷います。
主張を裏づける証拠がない場合、最終的に訴訟になっても勝ち目がないことになりますし、それ以前に弁護士自身が心証が取れないというのが問題です。
このような、その2その3の場合、依頼を引き受けられるかどうかのハードルは結構高いと言わざるを得ませんが、他方で、引き受けた場合に、意外にもその後勝訴まで持って行けてしまう場合も実は一定数存在します。
それがどのような場合なのかについては別途お話ししたいと思います。