黒のものを白にできるか
「行列」の北村晴男弁護士が
「明らかに黒(有罪)だとわかっているのに、白(無罪)にしてくれと言われたことは?」
と聞かれて、
「刑事民事に限らず『本当はこうだけど、こうしてくれ』って言われたことはいくらでもあります」
「それは、100%全部断ります。」
と答えていることが少しだけ話題になっているようです。
これって実は、我々弁護士にとっては当たり前のことです。
しかし、その本当の理由は北村弁護士が説明しているように「イヤだから」とか、「ストレスがかかるから」という個人的な理由とは少し違います。
弁護士には、依頼者の権利を擁護する義務に優先して、真実尊重義務(真実義務)があるとされています。これは、弁護士法1条において、基本的人権擁護及び社会正義実現が弁護士の使命とされていることに発する義務です。
従って、いくら依頼者の利益のためといっても、依頼者自身が真実に反すると認めている内容を主張していくことはできません。そのような意向を依頼者が有した場合、弁護士がその依頼を受けることは、弁護士職務基本規定31条で「弁護士は、依頼の目的又は事件処理の方法が明らかに不当な事件を受任してはならない」と定められていることに反し、懲戒の理由にもあり得ることなのです。
日本弁護士連合会│Japan Federation of Bar Associations:弁護士倫理(弁護士倫理委員会)
北村弁護士がこの辺を説明しなかったのは、おそらく理屈が面倒くさかったのかなと思いますが。
さて、実際に弁護士のところに来る依頼としては、北村弁護士の言うような『本当はこう(黒)だけど、こう(白)してくれ』というものよりも、依頼者自身は「白」と言っていても、どうみても「黒」ではないかと思える場合です。
この場合には、依頼者が認めていない以上は、弁護士の真実義務の問題は原則生じません。従って、弁護士が受任すること自体は可能と言うことになりますが、実際にはいろいろ難しい問題が生じます。この辺は長くなりますので、日を改めてということで。