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弁護士豊﨑寿昌の気まぐれ業務日誌

日々の業務、雑感、個人的興味を雑多に書いてます。

「拘置所捜索」判決 検察官は違法で裁判官は違法ではないのは何故か

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刑事事件の被告人(共犯者あり)が、公判途中に供述を翻した後、検察官が裁判官に被告人が勾留されている拘置所の居室等の捜索差押令状の発布を請求し、これを裁判官が認めて実際に捜索差押が行われた事件です。

 

これがなぜ問題になるかというと、言うまでもなく、刑事被告人には弁護人選任権が認められており(憲法37条3項)、この弁護人選任権に由来する防御権を担保するために、弁護人との秘密交通権が保障されている(刑事訴訟法39条1項)からです。被告人の公判中に被告人の勾留先の居室等を捜索すれば、そこには当然進行中の訴訟に関し、弁護人とやり取りしている書面等が存在している可能性が高いのですから、捜索自体が秘密交通権を侵害していると考えるべきかと思います。

 

こうした捜索差押は、上記のように、検察官が令状の発布を請求し、裁判官がこれを認めなければ実行されませんから、捜索差押自体が違法であれば、普通に考えれば、検察官と裁判官の双方の行為が違法とされるはずです。しかし、実際には地裁から最高裁まで、裁判所は一貫して検察官の行為を違法とする一方で、裁判官の令状発付行為には違法性を認めませんでした。

 

かなり不思議に思える結論ですが、地裁・高裁の判決を見る限り、このように結論が別れる理由は、(1)違法性を認める基準について、検察官の行為と裁判官の行為で別な基準を使用していること、(2)その上で、検察官の行為の前提となった判断資料と裁判官の行為の前提となった判断資料についてもレベルの違いを認定していることにあります。

 

このうち、先に(2)について説明すれば、検察官は、進行中の刑事裁判の状況について熟知し、かつ、全訴訟資料及び捜査資料を手持ちしているのですから、捜索差押により、具体的に被告人の秘密交通権及び防御権を侵害する危険について判断できたはうzであるのに、令状請求を受けた裁判官は、検察官が疎明資料として提出した内容以外については知り得ないため、検察官と同レベルでの判断はできないことを理由にしているようです。

具体的には、地裁の一審判決では、

「ただし,本件のように公判担当の検察官が把握している事実及び証拠と捜索差押許可状の請求を受けた裁判官とではその把握し,あるいは把握可能な情報に違いがあり,本件では,原告P1に接見禁止がいつから付されているかどうか等の情報,期日間整理手続が終了したかどうかの情報は裁判官に伝わっていたと認めることはできない(証人P5)から,上記捜査の必要性の程度についても必ずしも,検察官の認識と裁判官の認識が一致するものではない。)」

と述べています。

確かに、検察官の令状請求行為も、裁判官の令状発付行為も、専門的な職務の中の裁量権の行使に基づく行為ですから、その前提となった判断材料の違いは結論の違いに結びつく可能性はあります。

 

他方、(1)については、地裁及び高裁とも、裁判官の令状発付行為が違法となるのは、「裁判官が,与えられた裁量を著しく逸脱し,法が裁判官の職務の遂行上遵守すべきことを要求している基準に著しく違反する裁判をした場合,つまり,通常の裁判官が当時の資料,状況の下で合理的に判断すれば,到底捜索差押許可状を発付しなかったであろうと思われるのに,これを発付したような場合」に限定しています。これは、裁判官の訴訟上の判断に瑕疵があった場合、国家賠償法上の違法性が認定される場合の判例に沿ったものです。

これに対し、検察官の令状請求行為にはこのようなたぐいの基準は立てておらず、普通に違法性や過失を判断しています。

 

こうした(1)(2)の二つの違いから結論に違いが出てくるのです。

 

最高裁の今回の判断はまだ全文が掲載されておりませんので、その判断根拠は不明ですが、おそらく上記の地裁・高裁の判断を踏襲したのではないかと推測されます。

 

さて、このような裁判所の判断ですが、私自身は、本件で(1)の基準を用いること自体にもかなり違和感を感じますし、さらに(1)の判断基準を用いたとしても、(2)にかかる判断についても疑問です。

 

今回の捜索差押は、単に違法な検察官の行為によって、その事件の被告人が不利益を被ったという点に留まらず、被告人の防御権の保障という、刑事司法における大原則が侵され、憲法で保障された刑事被告人の権利が揺るがされたという大事件であり、簡単に起こってはらないものです。

 

令状の請求を受けた裁判官としても、公判中の被告人について、その勾留先の居室を捜索するなどと言う令状請求が来たら、真っ先に上記のような問題点が頭に浮かばなくてはなりません(そうでなければ司法試験を受け直した方がいいレベルです)。そのようなイレギュラーな令状請求を認めるのは、相当極限的な場合でなければならないでしょう。従って、たとえ検察官と判断材料が異なったとしても、本件で裁判官が令状の発布を躊躇するのが当然であり、少なくとも検察官に対し、躊躇なく令状を発付できるくらいの疎明を求めるのが「通常の裁判官が当時の資料,状況の下で合理的に判断」した結果取る行動ではなかったか、と考えます。

 

なお、連日報道記事にいちゃもんをつけているようで恐縮ですが、本件は、地裁段階で検察官の行為については違法と断定されており、被告側の国は控訴もしていませんから、高裁以降の争点は、裁判官の令状発付行為の違法性のみです。

従って、記事の「『拘置所捜索は違法』確定」というのは、地裁段階で既に確定していたのであり、明らかにミスリーディングな見出しではないでしょうか。